「sweet Sweet SWEET」(文司書) 【文豪とアルケミスト】 2023年01月18日 《2022年12月18日 発行》 ネームレス女司書の文司書詰め習作のため書いていた〈アイスと文司書〉シリーズを一冊の可愛らしい本として纏めました再録は全て加筆修正、さらに5本の書き下ろしを加えた計17本の文司書詰め合わせです。乱司書・秋司書・ポ司書・ハワ司書・ルイ司書藤司書・透司書・南司書・多喜司書・美司書【A5変形(正方形)/80p/¥800】〈pixivのサンプル〉■BOOTHで買う■b-2FOLIOで買う 【sample】秋司書 「ちぇりー・ぶろっさむ」 ある春の日の昼下がり。 休館日のその日。私は自分の買い物のついでに先生方のおつかいを引き受けた。 ここぞとばかりに次々とお使いを頼んでくる先生方に、気づけばメモには文字がびっしり。 さすがに量が多くないか? と思いながらもでかけようとしたところで、秋声先生に声をかけられた。「あ、先生も何かおつかいありますか?」 そう問うた私に、秋声先生は大きな溜め息をひとつ。「君ねぇ……安請け合いしすぎじゃない?」 それ、と先生が視線を向けたのは私の手に握られたメモ。「それ全部、一人で持って帰ってくるつもり?」 まったく……と頭を抱えた秋声先生は、そのまま私の買い物に同行してくれることになった。「秋声先生。ついてきてくださって、ありがとうございました」 思っていた以上に大荷物になってしまって、一人だったら無理だった……と、ついてきてくれた先生にお礼を告げる。「……人に頼ろうとしないところ、君の悪い癖だよね」 溜め息まじりの言葉に何も言い返せない。 何だかんだで、特務司書になってからずっと、秋声先生は私を助けてくれている。 あはは……と目を逸らせば、先生がくすりと笑うのが聞こえた。「あれ?」「どうかした?」 逸らした視線の先にあったものに、私は思わず声を零す。「桜のアイスですって! 先生、食べてみませんか?」 ピンク一色の店先に、たくさんの桜の花の装飾と一緒に掲げられた【さくらアイス】の文字。「アイスって……そんな気候でもないのに物好きだね」 確かに、春とは名ばかりの風が吹けば肌寒さすらある気候ではある。けれど……「でも、こういうのって季節限定なんですよ」 言い募る私。 秋声先生は、私が持っていた袋を取り上げ、「ここで待ってるから、買ってこれば?」 そう言って笑った。透司書 「すいーと でーと」 ああ、そうだった…… 今になって私は、 そのことを再認識したのだった。「ほら見て。これ、きっと司書さんにも似合うと思うよ」 そう言って、鏡に映る私の頭に、透谷先生は可愛らしい帽子をそっと乗せた。 それは、私の隣で楽しそうに微笑む人の頭に乗っているのと同じもので……つまりは、私たちはお揃いの帽子を鏡の前で試しているところだったりする。 クリスマスの装飾で街が賑わう十二月の初め。 私は、透谷先生に誘われて一緒に買い物に来ていた。「こういうのを『双子コーデ』って言うんだってね」 可愛らしいお揃いのワンピースを「司書さんのために作ってみたんだ」なんて渡されて、一度やってみたかったのだと笑顔で言われてしまっては、断ることなんてできやしない。 だから今日の私は、透谷先生とお揃いのワンピースにお揃いのコートを着て、街へと出てきた。「この帽子で完成だね」 満足そうな笑みが微笑ましい。 鏡に並んで映る私たちは、本当のことを知らない人から見れば完璧な双子コーデの女子二人組だ。「写真機を持って来れたらよかったね」「アレはさすがに館外への持ち出し禁止ですよ」 分かってるよ。と肩を竦めた透谷先生は可愛らしくて、ほんとは男の人なのに忘れてしまいそうになる。「帰ったら絶対、一緒に撮ってもらおうね」 そう言って、透谷先生は私の手を取った。グイグイと引っ張られて、私たちは並んで街の喧騒へと足を踏み出す。 そう言えば、特務司書になって帝國図書館に来てからは友達と賑やかな街を歩く機会なんてほとんどなかった。「司書さん、これからどこへ行こうか」 そう言って笑う透谷先生。 私は、手を引かれるままぐるりと辺りを見渡した。乱司書 「移り華」「アイスを青くしておきました」 目の前で、ニコニコと笑みを浮かべる江戸川乱歩に、またこの人は……と司書は肩を竦めた。「お嫌いでしたか?」「嫌いじゃないけど、食べたら舌が青くなっちゃうので」 悪戯と称して何かと食べ物を青色にしようとする乱歩には、もう慣れたと言えば慣れたのだけれど、その後で舌が青色になってしまうのだけは正直困っていた。 そんな司書の訴えに、乱歩はフムと考え込む素振りを見せる。「ナルホド。では、ワタクシがこちらをいただくことにしましょうか」 と、青く染まったアイスを自分の手元へ引き寄せて、どこからともなく出してきたは普通のバニラアイス。 今のは一体どこから? と目を瞬かせると、乱歩は器用に片目を瞑り、「種も仕掛けもございません」などと楽し気に笑うだけ。 以前、マントからお茶を出すなどという芸当も見せられたので、きっと今回もそうなのだろうと思うことにして、司書は促されるまま椅子に腰を下ろした。「先生のマントからはなんでも出てきちゃうんですね」「おや、ワタクシのマントの裏が気になりますか?」 テーブルに頬杖をつき、乱歩が司書を観察するように見つめてくる。「気になりますって言っても、教えてなんてくれないじゃないですか」 拗ねた顔をして見せて、司書はスプーンを手に取った。 乱歩はというと、オヤオヤなどと呟きつつ手にしたスプーンで自ら青くしたアイスを掬っている。 この帝國図書館で特務司書として日々の仕事をこなすようになって、随分と日が過ぎた。 目の前にいる乱歩とのこういったやり取りだって、もう何度目だろう。 PR