【「休日の過ごし方」より】 夏の呆れる程の暑さもいつの間にか落ち着いて、陽射しはまだ少し強いけれど吹き抜けてゆく風が心地良くなってきた初秋。
今日は図書館業務も司書の仕事も特務司書の任務も全部が休み。
文豪たちも思い思いの休日を過ごしているらしく、食堂や談話室で歓談している者もいれば、早朝から遊びに出掛けて不在の者や部屋から一歩も出て来ない者など様々だ。
この図書館で特務司書の任に就く本織沙理はといえば、いつもより少し寝坊をして遅めの朝食を終えてから、さて今日はどう過ごそうかと考えていた。
このまま部屋でのんびり過ごすのも魅力的ではあるし、風の心地良さそうな中庭で読書をするのもいいかもしれない。などと思いながら窓の外へと視線を向ければ、秋晴れの青空が目に入った。
「天気も良いし、少しお散歩にでも行こうかなぁ」
窓の外に広がる青空に誘われるように、沙理は出掛ける支度を始めた。
休日に外出するのは久しぶりだ。
【書き下ろし「夢ニ舞イ 現ニ煌ク」より】「あのね、司書さんのおててには、ちょうちょがいるんだよ」
「知ってる! 右の袖のところでヒラヒラしてる蝶々のことだよね」
「あの蝶はね、青い薔薇の花を行ったり来たりしてるんだ」
ナイショ、だよ。
可愛らしい声が中庭の隅から漏れ聞こえる。
通りすがりに聞こえてしまった内緒話に、彼はコッソリと笑みを零して静かに踵を返した。
ふうわりと黒いマントの裾が広がり翻って、微かな足音についてゆく。
その背中を追うように「でもね……」と続いたのは小さな小さなナイショの言葉。
青い空を背景に、ヒラヒラと小さな蝶が舞い過ぎて行った。