「こひしかるべき」(和彩)
《雅恋 和泉×彩雪 再録本》
【収録作品】
・こひぞつもりて
・恋染の夜月に想いを
・恋宵~こよい~
・ひととせのことほぎ
+書き下ろし2本
【92p/800円】
【sample】
再録「恋宵」
「たまにはどうかなって思って、ね?」
はじまりは、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた、和泉の一言だった。
人差し指を唇の前に立て、器用に片目を瞑った和泉が出してきたもの。
「えっ、何?」
「み、宮!いつの間に!?」
「ほぅ……」
「おぉ!気ぃきくやないか、和泉!」
戸惑う彩雪をよそに、ライコウが慌てた声を上げ、晴明がにやりと笑みを浮かべ、弐号がはしゃぎ始める。
そんな彼らの様子と、ふと鼻をくすぐった匂いに、彩雪は、それが何なのかに思い当たった。
――あ、もしかして……
「ね、和泉。もしかしてこれって、全部お酒?」
「うん、そうだよ。」
「え、でも……」
いつの間に……
そんな疑問が、顔に出ていたのだろう。
和泉は、彩雪に悪戯っぽい笑みを向けてから、楽しげに言った。
「ん?あぁ、だって、俺ばっかり宴に招待されて……っていうんじゃ悪いだろう?」
「宮、だからと言って……」
「まさか……とは、思いますが。宮様……?」
ライコウが呆れ顔で、源信が苦笑を浮かべて、それぞれに溜息を吐く。
「はは、ちょっと、ね。たくさんあったから、いくつか見繕ってきたんだけど……」
けれど、和泉は、そんなこと意にも介さぬ風にくすくすと笑っていた。
つまりは。
あの宴の場から、持ち帰ってきた……ということなのだろう。
驚きのあまり呆然とする彩雪をよそに、あれよあれよという間に宴が始まってしまった。
書き下ろし「こひしかるべき」
さらさらと衣擦れの音が響く。
庇の向こうに見える空は、青く晴れ渡っていて……
彩雪は、ふと足を止めた。
「どうかなさいましたか?」
「いい天気だなぁって思って……」
すぐ後ろに付き添っていた頼子に問われ、彩雪は笑みを浮かべる。
欄干に手を置き、少しだけ庭へと身を乗り出せば、雲ひとつない青空が見えた。
「ええ、本当に」
彩雪の隣で、同じように空を見上げた頼子が微笑む。
「どなたかでしたら、もったいない!とおっしゃって抜け出してしまわれそうですわね。」
「ふふ、確かに。」
くすくすと顔を見合わせて笑う。
奔放な彼の人は、今頃、政に追われていることだろう。
「ですが――」
「なあに?」
じっと、頼子が見つめてくる。
彩雪は首を傾げた。
「お願いですから、一緒になって抜け出したりするのは控えてくださいね?」
「うっ……」
にっこりと、とても綺麗な微笑みで頼子に釘を刺されて、彩雪は言葉に詰まってしまう。
――だ、だって……
確かに。
誘われて、一緒になって宮中を抜け出したことがあるのは事実だ。
しかし……
「だって。あんな顔されたら、ダメって言えなくなっちゃうんだもん……」
言い訳のように呟いて、彩雪は視線を逸らす。
「まったく……」
はぁ、と頼子は溜息を吐いた。
「おふたりが、仲がよろしいのはわかっておりますわ。
ただ、わたくしとお兄様のこと、あまり心配させないでくださいね。」
「はぁい。」
苦笑を浮かべながら頷けば、仕方がないというような顔で頼子が微笑む。
「ふふ。さあ、いつまでもこんなところで寄り道していてはいけませんわ。参りましょう?」
「うん」
促されて、彩雪は、頼子と共に歩きだした。
PR