「こひしかるべき」(和彩) 【雅恋~MIYAKO~】 2013年07月12日 《雅恋 和泉×彩雪 再録本》 【収録作品】 ・こひぞつもりて ・恋染の夜月に想いを ・恋宵~こよい~ ・ひととせのことほぎ +書き下ろし2本 【92p/800円】 ■BOOTHで買う 【sample】 再録「恋宵」 「たまにはどうかなって思って、ね?」 はじまりは、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた、和泉の一言だった。 人差し指を唇の前に立て、器用に片目を瞑った和泉が出してきたもの。 「えっ、何?」 「み、宮!いつの間に!?」 「ほぅ……」 「おぉ!気ぃきくやないか、和泉!」 戸惑う彩雪をよそに、ライコウが慌てた声を上げ、晴明がにやりと笑みを浮かべ、弐号がはしゃぎ始める。 そんな彼らの様子と、ふと鼻をくすぐった匂いに、彩雪は、それが何なのかに思い当たった。 ――あ、もしかして…… 「ね、和泉。もしかしてこれって、全部お酒?」 「うん、そうだよ。」 「え、でも……」 いつの間に…… そんな疑問が、顔に出ていたのだろう。 和泉は、彩雪に悪戯っぽい笑みを向けてから、楽しげに言った。 「ん?あぁ、だって、俺ばっかり宴に招待されて……っていうんじゃ悪いだろう?」 「宮、だからと言って……」 「まさか……とは、思いますが。宮様……?」 ライコウが呆れ顔で、源信が苦笑を浮かべて、それぞれに溜息を吐く。 「はは、ちょっと、ね。たくさんあったから、いくつか見繕ってきたんだけど……」 けれど、和泉は、そんなこと意にも介さぬ風にくすくすと笑っていた。 つまりは。 あの宴の場から、持ち帰ってきた……ということなのだろう。 驚きのあまり呆然とする彩雪をよそに、あれよあれよという間に宴が始まってしまった。 書き下ろし「こひしかるべき」 さらさらと衣擦れの音が響く。 庇の向こうに見える空は、青く晴れ渡っていて…… 彩雪は、ふと足を止めた。 「どうかなさいましたか?」 「いい天気だなぁって思って……」 すぐ後ろに付き添っていた頼子に問われ、彩雪は笑みを浮かべる。 欄干に手を置き、少しだけ庭へと身を乗り出せば、雲ひとつない青空が見えた。 「ええ、本当に」 彩雪の隣で、同じように空を見上げた頼子が微笑む。 「どなたかでしたら、もったいない!とおっしゃって抜け出してしまわれそうですわね。」 「ふふ、確かに。」 くすくすと顔を見合わせて笑う。 奔放な彼の人は、今頃、政に追われていることだろう。 「ですが――」 「なあに?」 じっと、頼子が見つめてくる。 彩雪は首を傾げた。 「お願いですから、一緒になって抜け出したりするのは控えてくださいね?」 「うっ……」 にっこりと、とても綺麗な微笑みで頼子に釘を刺されて、彩雪は言葉に詰まってしまう。 ――だ、だって…… 確かに。 誘われて、一緒になって宮中を抜け出したことがあるのは事実だ。 しかし…… 「だって。あんな顔されたら、ダメって言えなくなっちゃうんだもん……」 言い訳のように呟いて、彩雪は視線を逸らす。 「まったく……」 はぁ、と頼子は溜息を吐いた。 「おふたりが、仲がよろしいのはわかっておりますわ。 ただ、わたくしとお兄様のこと、あまり心配させないでくださいね。」 「はぁい。」 苦笑を浮かべながら頷けば、仕方がないというような顔で頼子が微笑む。 「ふふ。さあ、いつまでもこんなところで寄り道していてはいけませんわ。参りましょう?」 「うん」 促されて、彩雪は、頼子と共に歩きだした。 PR