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Hell and Heaven ONLINE

火弟巳生個人サークルHell and Heavenの発行物情報 <通販再開しました>

「風花の唄」(弁望)



運命の迷宮設定でほのぼの現代デート話
冬休み前(ゲーム前)の学校帰りの話と1つ目の弁慶イベント少々捏造話の2話構成。
弁慶と望美以外まともに出てませんがスミレさんが微妙に出張ってます

【44p/¥500】


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1.光揺らぐ冬夜空


 色とりどりのイルミネーションが、街を彩っていた。

 お目当ての店で、新作ケーキでお茶をして…
 並んで歩くのは商店街。
 自分達の分も含めた十一人分のお土産ケーキは、今、弁慶の手に提げられた紙袋の中にある。

 赤や緑に装飾された店頭。
 木々は輝きを放って夜を明るく装飾している。

 ――あ…………

 ふと、望美は立ち止まった。

 ――なんだか…不思議だな……

 ほんの数日前までは、夜は闇でしかない世界にいたのに。
 今は、こんなにも明るい場所を歩いている。
 見上げた暮れがかった空には、瞬いているであろう星の姿は…ほとんど見えなくて……

 ――星や月が明るいんだって、あの世界で初めて知ったっけ…

 
「望美さん。急に立ち止まったら危ないですよ。」

 とん…と肩を叩かれて、望美は我に返った。

「あ…弁慶さん。」

 夢を見ていたかのような望美の顔に、弁慶は苦笑を浮かべた。


「どうか…しましたか?」
「え…あ……はい。」

 促されて、再び歩を進めながら望美は小さく笑みを浮かべた。

「なんだか不思議だなぁ…って思って……」
「不思議…ですか?」
「はい。」

 
 夜が明るいことが?
 元の世界に戻ってこられたことが?
 違う……

 ――弁慶さんと一緒に、こうやって歩いてることが不思議なんだ…


「……確かに、不思議なものですね。」
「弁慶…さん?」

 ぽつり…と零された言葉に、望美は弁慶の顔を見上げた。





2.風に舞う花欠片


「この辺りでは、よく遊んでいたんですか?」

 頷いた望美に、弁慶は境内を見渡した。
 そこに、望美の成長の過程が散りばめられているのだろう…そう思いながら見ていると、この小さな境内も特別なものに見えてくるから不思議だ。

「会ってみたかったですね。小さな君に…」

 無邪気に、舞い散る花びらを追いかける様が想像できる。
 きっと……

 ――君は、幼い頃から何にでも熱心になっていたんでしょうね…

「私だって、見てみたかったですよ。荒法師の弁慶さん。」

 悪戯っぽい目で、望美が弁慶を見上げる。

「は?」

 思わず目を瞠った弁慶は、望美が、徒党を組んでいた頃の話を聞きたがっていたことを思い出した。

「だって、やっぱり想像がつかないですもん。」
「……ここで花びらを追いかけていた小さな女の子が、花断ちを会得してしまったことの方が想像つきませんよ。」

 苦笑混じりに弁慶に告げられて、望美は目を瞬かせた。
 言われてみればそうかもしれないが……

 ――優位に立てたと思ったのに…

 少し驚いた顔をした弁慶を見られた代償を、取られた気がした。
 それどころか、今の言葉で、子供の頃に花びらを追いかけていたのと同じ様に、手にした剣を闇雲に振り回していた…未熟だったの頃の自分を思い出してしまった。

 ――何か悔しい……

 頬を膨らませて踵を返す。

「望美さん?」

 弁慶の声が追い掛けてくるけれど答えない。
 さっさと山門を出ると、ちょうどホームから電車が出たのだろう。
 ガタンゴトン…という音が耳に届いた。
 今、電車が出たということは、この後の移動手段は徒歩になる。
 さすがに、次の電車を寒い中待つのは避けたい。
 次はどこへ行こうか…などと考えながら、望美は、追いかけてくる弁慶の気配を背中で感じていた。

「あれ?」

 不意に、視界の端を花びらのようなものが舞ったような気がして…望美は足を止めた。
 辺りを見回すけれど、近くに花はなくて…望美は首を傾げる。

 ――気のせい…かな?

 「どうかしましたか?」

 すぐ傍で聞こえた声に振り返ると、いつの間に来たのか…弁慶が隣に立っていた。
 なんでもない…と、首を横に振る望美の解けかけたマフラーを直しながら、弁慶は空を見上げた。

「少し冷えてきましたね。」

 雪にはならないとは思いますが…呟き、見上げてきた望美へと弁慶は笑みを向ける。

「次は、どこへ行きましょうか?」

 弁慶の問い掛けに、望美は、ほんの少しだけ考え込んでから、呟くように告げた。

 
「スミレおばあちゃんの所へ行きたいです…」
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