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Hell and Heaven ONLINE

火弟巳生個人サークルHell and Heavenの発行物情報

「夢現の泡沫にも似て」(桂灯)

《7/26 ラヴ♥コレクション2026 in Summer にて発行予定》



◆収録作品◆
・それは、まだ
・君を守るための…
・DressUP(続き書き下ろし)
・ちくりとちいさく……
・布団攻防
・猫……?吸い
・楽しい夢と……
・微睡みに見る夢
・名残ノ花弁(続き書き下ろし)
・Limiter
【A5/84p/¥800】

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それは、まだ
「……ねえ、神子は…、どうしたい? ……なにを、してほしい? ………教えて……?」
 耳元で囁く甘い声。
 どうって……
 もっと、ぎゅーって、くっついて……
 ううん。
 いっぱいぎゅーってしてるけれど……
どこかもどかしくて……
 そして、ふとそれに気付いた。
「桂さんの……顔……が、……見たい、です」
 抱き合っていると、お互いをすごく近くに感じられるけれど……近すぎて顔が見えない。
「……顔?」
「はい」
 今、どんな顔をしているの?
 どんな顔で私を抱きしめて、甘やかしてくれているの?
「………………」
 桂さんが動きを止めた。
「?」
 でもそれは一瞬のことで……
 すぐにまた、ぎゅーっと抱きしめられる。
「それは、ね…………」
 ふわふわと甘い綿菓子みたいな声
「まだ……だめ…………かなぁ……」
 えへへ、と困ったように笑う声。
「ま……だ?」
 どういうことだろう?
 考えようとするけれど、その思考は頭ごと抱き寄せられて、すぐに霧散する。
「そう。まだ…………」
「でも………………」
 背中を頭を抱き寄せた手が優しく撫でてくれる。
「………………ら、…………く……から」
「え?」
 なんて言ったんだろう? 
 聞き返したけれど、それ以上は何も言ってくれなくて……
 ただ、優しく抱きしめられて甘やかされる。

Limiter
その熱はとても気持ちが良くて。
お酒に酔った時のような……
ふわふわとした感覚に似て。
いつもより少し大胆になってしまう。
「……っ……桂、さん…………」
 熱をもてあまし触れてくる神子は、儚くて、可愛くて……
いつも、格好いいなぁと思って見ている凛々しい姿とは全然違う。
全力で、守りたい。甘やかしたい。優しくしたい。
何もかもを受け止める、安らげる場所でありたい。
「大丈夫、だよ」
トントンと、抱き寄せた背中を優しく叩く。
「どうしたいのか……言って?」
 神子にとって神気は強すぎる薬みたいなもので。
その助けとなるべく、こうやって受け取っているわけだけれど……
受け取る側にとっても、過ぎるこの熱は……逆に彼女に牙を向けかねないんじゃないかと、常々思っている。
「もっと……近くに……」
「いいの? ……それじゃあ」
 しっかりと抱き寄せれば、甘くて切ない熱い吐息が耳をくすぐった。
こんな姿、他の男になんて見せたくないなんて独占欲と同時に、他の八葉とも神気注入(こんなこと)をしているのかと思うと…………嫉妬を覚える。
こんなことを続けていたら、いつかは間違いが起こるんじゃないのだろうか? と心配になる。
だって…………
神子はこんなに、やわらかくて可愛らしくて儚くて…………まるでふわふわの甘いお菓子のようなのだから。
「君のしたいこと、して」
 そう告げれば、僕の真似をして背中をトントンと叩き、肩にすがりつく手で衣をきつく掴む。
あぁ……本当に素直で可愛くて…………ずるい。
「すごい…ね。君の鼓動……伝わってくる……」
「……っ……桂さんの、も……」
「うん……」
とくんとくんと伝わる鼓動に合わせて、優しくトントンと背中を叩く。
熱と息と微かな甘やかな声。
今、君はどんな顔をしている?
 ああ…気になる……
気になるけれど……
見ない方が、いい。
 ……君の顔を見てしまったが最後。
きっと……
この熱は君に牙を、剥く。

(DressUPの続き書き下ろし部分冒頭です)
 
 
 
「神子、今日のお勤めは終わり?」
 
ある日のこと。
 神楽殿から出てきたところで、灯は桂とばったり遭遇した。
 
「桂さん!」
「お疲れ様、神子」
 にこにこと人好きのする笑みを浮かべながら、桂は灯と並んで歩く。
「ねえ。神子はこの後、時間ある?」
「時間……ですか?」
 突然どうしたのだろう? と灯は首を傾げた。
 特に用事があるわけではない。
このまま宿舎に帰るか、足湯でのんびりするか、それとも散歩でも……と考えていたところだったのだ。
「特に予定がないなら、一緒に仲見世通りへ買い物に行かない?」
 三つ編みに結われた髪が肩口で揺れる。
 軽く首を傾げ灯の顔を覗き込みながら、桂は「ダメかな?」と問うてくる。
「買い物、ですか?」
 
 行き先は足湯ではなく?
 目的がおまんじゅうでもなく?
 ただの散歩でもなく?
 
「ほら、君と一緒に買い物に行こうって約束をしていたでしょ? 向こうで果たせていないから、さ」
 ああ、そう言えば! と灯は思い出した。
 桂の世界で、そんな約束をした。
けれどあの後、そんな時間も取れないまま……あちらでは潜伏の日々を過ごしている。
「そうでしたね」
「ね? だから、いいでしょ」
 可愛らしく小首を傾げる様子に笑みが溢れる。
 こういうところがズルイ人だ……と灯は思った。
 けれど、あちらで果たせなかった約束を、こちらでと……いうのは魅力的ではある。
「はい。ぜひ!」
「やったぁ!」
 じゃあ、行こうか! と、桂は灯の手を取って歩き出す。
しっかりと灯の手を握りしめた大きな手に、どきりとした。
 
 きっと他意はない。
 
 それは分かっているのに……騒ぎ出した鼓動を止めることはできそうになかった。
 
 
 
 
 
仲見世通りには色々な店が立ち並んでいて、歩きながら店先を覗いて歩くだけでも面白いものだから、灯は普段から時々ウインドウショッピングのようなことを楽しんでいた。
 
 今日は、一人ではなく桂と二人。
誰かと一緒に歩くのは、一人で歩くよりも楽しい。
 それが、他でもない桂と……なのだから。
 
「神子は、何か見たいものはある?」
 問われて、仲見世通りの店先を見渡す。
 普段あちこち覗いてはいるけれど、改めて問われると困ってしまうもので……
 そういえぱ、と灯は通り沿いの店先へと視線を向けた。
 確かこの辺りだったはずだけれど、以前通りがかった時に、とてもきれいな反物が飾ってあったのだ。
 それからも何度か見かけて、見るたびに目を奪われていたのだけれど……
「あ……」
「どうかした?」
 あんなに素敵なものなのだ、いつまでも残っているはずがない。
 少しだけ残念な気持ちにはなったけれど、灯は首を横に振った。
「いえ、なんでもないです」
 首を傾げる桂へと誤魔化すように笑みを返す。
 じっと桂が顔を見つめてくるのが分かったけれど、気付かないふりをした。
 
「おっと桂さん! 例の品、入ってきやしたぜぃ!」
 不意に掛けられた声に振り返れば、通り向こうにはタコ助の姿。
「ありがとう! それじゃあ、お邪魔させてもらうね」
 そう答えた桂が、灯の手を引く。
「とても素敵なものが入荷したみたいだから、一緒に見に行こうか」
「……はい!」
 気を取り直して、手を引かれるままに桂についてゆく。
 
 まだ少し残念な気持ちを抱えて店先を振り返った灯は気付いていなかった。
桂がタコ助と視線でやり取りをしていたことにも、彼が灯の顔を盗み見ていたことにも。
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