「夢と現の狭間の夜に」(乱司書)R18 【文豪とアルケミスト】 2019年12月31日 ある夜。 夢と現の曖昧な意識の中、司書は乱歩と初めての夜を迎える…… 恋人同士となってしばらくした頃の、ハジメテの夜のお話。 ※名前あり創作女司書注意 【文庫52p/¥600】〈pixivサンプルページ〉 ※この本は年齢指定有(R18)です ※サンプルは全年齢部分です ■BOOTHで買う ■b-2FOLIOで買う ■メロンブックス/フロマージュブックスで買う 【sample】 窓の外には星月夜。 本織沙理は、自室の机に向かって本のページを捲っていた。 昼間は特務司書としての仕事が忙しく、時間が取れないまま部屋に積まれた未読の本の山を切り崩すのは仕事を終え静かになった深夜くらいしかない。 日々の激務を考えれば早々に体を休めるべきなのだろうけれど、幸い明日は休日だ。 休日前の夜に夜更しをせずしてどうする。などという言い訳をしながら、沙理はこうやって深夜の読書を楽しんでいた。 コンコン 不意に扉がノックされて、沙理はビクリと肩を跳ねさせた。 こんな時間にどうしたのだ。一体誰なのだ。 不審には思うものの無視をするわけにもいかず、読みかけの本に栞を挟むと沙理は立ち上がった。 「はい。どなた?」 「ワタクシです」 誰何すれば返ってきたのは助手であり恋人でもある江戸川乱歩の声。 ドキリと鼓動が跳ねる。 こんな時間になんてまさか……などと過ぎるけれど、二人の仲は未だ清いままだ。 「どうしたんですか?」 不安と期待が入り混じったままで扉を開けば、そこにはいつもと変わらぬ表情で江戸川が立っていた。 「まだ起きていらっしゃるようでしたので」 そう告げた唇が笑みの形を作る。 ゆっくりと目が細められ、その奥で青い瞳が外から差し込む月明かりを受けて輝いた。 これは夢か現か…… 思考は狭間を彷徨いふうわりと揺れる。 視界の端を青く輝く蝶がひらりと舞い通り過ぎた気がした。 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 枕元の時計に目をやる。 二度三度目を瞬かせてみても、時計はいつも目覚めるより二時間は前を示していた。 どうしてこんなに早く目が覚めたのだろう? とぼんやりする頭で考えて、沙理はふとそれに気づいた。 「…………え?」 布団の中に何かがいる。 恐る恐るそちらへと視線を向け、沙理は硬直した。 昨夜は疲れも溜まっていたし早々に部屋に引き上げ寝たはずだ。 誰かが部屋に訪ねて来た覚えはない。 ない、はずだ。 ぐるぐると頭の中で昨夜の自分の行動を再生しながら、沙理は隣で気持ち良さそうに眠る人物を凝視した。 心臓が壊れてしまうのではないかというほど激しく暴れる。 特別な好意を抱いている――それを互いに伝え合い所謂恋人同士になったのはつい最近だが、その相手が隣で寝ているのだから動揺もすれば緊張もするし混乱して当然だろう。 彼とは未だ清いままの付き合いを続けていて、同衾するような仲になった覚えはない。そもそも、この人が部屋を訪ねてきた記憶がない。 はっとして自分の格好を確認するが、パジャマはきちんと着ていた。 「なんで?」 はっきりとし始めた思考。 どれだけ考えても彼がここにいる理由が全く分からない。 勝手に入ってきたとしか思えないが方法に検討がつかない。 しかも彼の場合、どんな方法であれ、それができてしまいそうだから質が悪い。 緊張と混乱の後にふつふつと沸き上がってきたのは怒りだった。 「先生!」 布団からはみ出ている白いシャツの肩を揺さぶる。 ベッドの傍にある椅子の背に、見慣れたチェックのベストと水色のネクタイが丁寧に掛けてあるのが見えて、 ここはあなたの部屋じゃないぞと呆れ返る。 ※この本は年齢指定有(R18)です PR